LOGIN第十八話 ハーレムルート解禁
龍之介は、織田信長の娘である歩美姫を妻に迎えて以来、夫婦として仲睦まじく暮らしていた。跡継ぎを望む気持ちもあり、二人で子宝に恵まれる日を待っていたものの、祝言から一年近くが過ぎても、歩美が身ごもったという知らせはなかった。
この時代、婚姻から一年ほど子ができないこと自体は、さほど珍しい話ではない。歩美もまだ若く、医師から身体に問題があると言われたわけでもなかったため、龍之介自身は、それほど焦る必要はないと考えていた。
しかし、正二位左大臣藤原朝臣三上龍之介正圀は、いまや公家の頂点に立つ人物の一人であり、近江八幡十万石を治める大名でもある。その家に跡継ぎがいないとなれば、本人たちだけの問題では済まなかった。
三上家と縁を結ぼうとする公家や大名からは、娘を側室として迎えてほしいという話が、毎日のように持ち込まれていた。美しく装った姫の絵姿や、家柄と教養を並べ立てた書状が屋敷へ届き、使者によっては返事をもらうまで帰ろうとしない者までいる。
龍之介は、歩美の心を傷つけたくないとい
第十九話 側室は黒ギャル⁉ 童顔姫⁉ 美男子⁉ 帝から直々に勧められたこともあり、龍之介は摂関家の一つである近衛家から、側室を迎える運びとなった。 相手は美乃利姫という、近衛家の血を引く娘である。家柄だけを見れば、正二位左大臣である龍之介の側室として申し分ないどころか、これ以上を望むのは難しいほどの縁談だった。 しかし、龍之介は話を聞いた時から、少なからず不安を感じていた。「近衛家の姫となれば、いかにも公家らしい、気位の高い娘なのではあるまいか。朝から晩まで家柄や作法の話をされ、何かするたびに下品だと叱られるようでは、家に戻っても気が休まらぬぞ」 そんなことを考えている龍之介自身も、帝の血を引き、藤原朝臣を名乗る正二位左大臣である。誰よりも公家らしい立場にいる自分のことは、見事に棚へ上げていた。 美乃利を迎える日、嵐山の屋敷では、側室の輿入れとしては異例ともいえる祝言が執り行われた。 大勢の客を招いた華やかな宴ではなかったが、相手は摂関家である近衛家の娘である。何の儀礼も行わず屋敷へ迎え入れるわけにはいかなかったため、形ばかりとはいえ、三々九度の盃を交わすこととなった。 花嫁衣装に身を包んだ美乃利は、近衛家の者たちに付き添われて屋敷へ到着した。白を基調とした衣には淡い金糸で花が縫い取られ、歩くたびに裾の模様が光を受けて静かに揺れている。 祝言へ招かれたのは、三上家の側近と、龍之介が以前から付き合いを持つ数名の公家だけだった。 公家たちを招いたことには、近衛家への礼を尽くす以外にも意味がある。龍之介が織田信長との関係だけを重んじているのではなく、これからは左大臣として公家社会とも誠実に付き合い、朝廷を支えていくという意志を示すためだった。「左大臣殿が近衛家から姫を迎えられたことで、武家と公家の双方を結ぶ御立場が、いよいよ確かなものとなりましたな」「織田関白殿の娘を正妻に、近衛家の姫を側室に迎えるとなれば、三上家へ異を唱える者も減りましょう」 祝言の席では、そのような言葉が公家たちの間で交わされていた。 龍之介は盃を傾けながら、側室を一人迎える
第十八話 ハーレムルート解禁 龍之介は、織田信長の娘である歩美姫を妻に迎えて以来、夫婦として仲睦まじく暮らしていた。跡継ぎを望む気持ちもあり、二人で子宝に恵まれる日を待っていたものの、祝言から一年近くが過ぎても、歩美が身ごもったという知らせはなかった。 この時代、婚姻から一年ほど子ができないこと自体は、さほど珍しい話ではない。歩美もまだ若く、医師から身体に問題があると言われたわけでもなかったため、龍之介自身は、それほど焦る必要はないと考えていた。 しかし、正二位左大臣藤原朝臣三上龍之介正圀は、いまや公家の頂点に立つ人物の一人であり、近江八幡十万石を治める大名でもある。その家に跡継ぎがいないとなれば、本人たちだけの問題では済まなかった。 三上家と縁を結ぼうとする公家や大名からは、娘を側室として迎えてほしいという話が、毎日のように持ち込まれていた。美しく装った姫の絵姿や、家柄と教養を並べ立てた書状が屋敷へ届き、使者によっては返事をもらうまで帰ろうとしない者までいる。 龍之介は、歩美の心を傷つけたくないという思いから、それらの申し出をすべて断り続けていた。 ところが、義父である信長からも、三上家の存続を考えるなら側室を持つべきだと勧められた。自分の娘だけを大切にせよと言われるならともかく、その父親から許しを出されてしまえば、龍之介にも断り続ける理由がなくなってしまう。 悩んだ末、龍之介は側室を迎れることを決めた。 その話を聞きつけた恵梨香と深雪は、龍之介の自室へ勢いよく乗り込んできた。「うわっ、お兄ちゃん、本当に側室を迎えるの。歩美お姉様のような綺麗で優しい奥方がいるのに、まだ女の人を増やすつもりなの」「お兄様、私は失望いたしました。歩美お義姉様がお可哀想ではありませんか。あれほどお兄様を立て、この家のために尽くしてくださっているのに、子ができないというだけで別の女性を迎えるなんて、あまりに薄情でございます」 二人から左右に座られ、責めるような目を向けられた龍之介は、手にしていた書付を静かに置いた。「そなたたちは、誰からその話を聞いたのだ。まだ家中へ正式に申し渡したわけではない
第十七話 双胴鉄甲船 日の本で織田信長に対抗できる勢力が次々と姿を消していく一方、九州では島津家がすでに全土の平定を成し遂げていた。 島津家は信長が中国地方や四国へ勢力を広げる動きを見ながら、残された時間は少ないと判断し、九州における勢力圏の拡大を急いだのである。九州統一を果たした後には、本州から織田軍が攻め込んでくる事態へ備え、関門海峡を押さえるため、門司と小倉に海城を築いた。 海へ突き出すように築かれた城には兵と武具が集められ、海峡を通過する船を監視するための物見櫓も設けられている。狭い関門海峡を渡ろうとする織田軍を陸と海の双方から迎え撃ち、本州側へ圧力をかける構えだった。 島津家も、ただ織田軍を恐れて守りを固めているわけではない。九州を統一した大名としての誇りがあり、信長が関白兼征夷大将軍に任じられたからといって、戦わずに臣下へ下るつもりはなかった。 その頃、安土城へ戻っていた信長のもとを、龍之介が訪れていた。 安土城の上層に設けられた一室には、西国から九州に至るまでを描いた大きな地図が広げられていた。中国地方と四国には織田家の支配を示す印が置かれ、九州だけが島津家の色に染められている。 信長は地図の前に座る龍之介へ、いつになく真剣な表情を向けた。「左大臣殿、いよいよ九州征伐を始める時が来ました。島津を降せば日の本は一つとなりますが、それだけに敗北はいっさい許されぬ戦となりましょう。一度でも大きく敗れれば、北条や奥州の大名たちは、織田も恐れるに足らぬと考え、再び野心を起こしかねません」「恭順したばかりの大名たちは、我らへ心から忠誠を誓ったわけではございませんからな。信長様の力と朝廷の権威を恐れ、今は頭を下げているだけの者も少なくないでしょう」「そのとおりです。ゆえに九州征伐では、勝つだけでは足りませぬ。織田家へ逆らうことが、いかに無益であるかを天下へ示すほどの勝利が必要となります。しかし、島津は関門海峡の向こうで待ち構えておる。大軍を無理に渡らせようとすれば、海上と岸辺の双方から攻撃を受けることになるでしょう。左大臣殿、海峡を渡るために何かよい案はございませんかな」 龍之介は地図上
第十六話 新装備 龍之介は以前から、戦国時代の合戦において、持ち運びのできる『盾』がほとんど活用されていないことを不思議に思っていた。 前世で見た戦国時代を題材とする物語でも、槍や刀、弓や火縄銃は盛んに登場していたが、盾を持って戦う兵の姿はめったに描かれなかった。実際の戦場でも、木の板を並べた盾は陣地の守りなどに使われていたものの、最前線で兵が手に持って運用する大型の盾は、あまり普及していなかったのである。 西洋の戦場と違い、日本には山や谷が多く、戦場となる土地も起伏に富んでいる。大きく重い盾を持ったまま山道や湿地を進むことは難しく、そのため日本では、武士が携行する盾が大きく発達しなかったのだろう。 もちろん、防具としての盾がまったく使われていなかったわけではない。火縄銃が広まってからは、細い竹を幾重にも束ねた『竹束』が弾除けとして使われていた。竹束は比較的手に入りやすく、銃弾の勢いを弱めることもできたが、龍之介は自軍の防御力をさらに高められないかと考えていた。「三千の足軽へ西洋式甲冑を着せるだけでも、従来の軍勢よりは頑丈になる。しかし、銃弾が飛び交う中を進ませるのであれば、身体を隠せる盾も欲しいところだな」 そこで龍之介は、洛中で腕を認められている甲冑師や鍛冶師を嵐山の屋敷へ呼び集め、自らが考える盾の姿を説明することにした。 龍之介が用意させた紙には、大きな盾の絵と寸法が細かく書き込まれていた。集められた職人たちは、その見慣れない形を前にして、何度も首をかしげている。「作ってもらいたいのは、兵一人の身の丈をほとんど隠せる盾だ。高さは、およそ一間より少し低い程度、今の尺度で申せば百七十センチほどを考えている。前方を確認するための覗き穴を設け、火縄銃を支えられる場所と、そこから撃てる射撃口も欲しい」 年長の甲冑師が図面を覗き込みながら、慎重に尋ねた。「これほど大きな盾を鉄で作れば、相当な重さになります。火縄銃の弾を防ぐだけの厚みを持たせれば、屈強な足軽でも長い距離を運ぶことは難しいでしょう」「それは承知している。まずは実際に作り、その重さと強度を確かめたい。図面だけを眺めていても、分からぬ
第十五話 柳生宗矩と西洋備え 近江八幡十万石の大名となった龍之介であったが、その家臣と呼べる者は、漆黒の装束をまとった忍びの影鷹ただ一人しかいなかった。 もちろん、嵐山の屋敷には炊事や掃除、馬の世話などを担う下人たちがいる。新たに領地となった近江八幡にも、織田家から引き継いだおよそ三千人の足軽が待機していた。しかし、足軽たちを率いる侍大将や、領地の政務を取り仕切る奉行となる家臣が、三上家には一人もいなかったのである。 これまでは世捨て人として暮らしていたため、それでも困ることはなかった。しかし、十万石の領地と三千の兵を預けられた以上、いつまでも影鷹一人へ何もかも任せておくわけにはいかない。 龍之介は嵐山の屋敷にある自室で、近江八幡から届けられた人別や年貢に関する書付を眺めながら、深いため息をついた。「領地を頂いたのはありがたいが、人がおらぬのでは何も始められぬ。民を治めるにも兵を動かすにも、信頼できる家臣が必要だな」 独り言を漏らした龍之介は、書付から顔を上げると、部屋の外へ向かって声をかけた。「影鷹はおるか」「はっ、ここにおります」 返事が聞こえた時には、すでに影鷹が龍之介の斜め後ろで平伏していた。 いつ部屋へ入ってきたのか、戸が開いた音も、畳を踏む気配もなかった。龍之介は武芸において常人とは比べものにならないほど鋭い感覚を持っているが、それでも影鷹が本気で気配を消して近づくと、姿を現すまで気づけないことがある。「相変わらず、どこから現れたのか分からぬな。味方だと知っていても、少しばかり肝が冷えるぞ」「忍びが姿を見せてから気づかれるようでは、日頃の鍛錬が足りぬということでございます」「褒めておるのだが、なぜ儂が説教されているような気分になるのだ。まあよい、影鷹に尋ねたいことがある。そなたの里、あるいはこれまでの修行で知り合った者の中に、三上家へ仕えてくれそうな人材はおらぬか。腕が立つだけでなく、兵を率いることのできる者が欲しい」 影鷹は少し考えるように目を伏せた後、静かに答えた。「それでしたら、かつて同じ師のもとで技を学ん
第十四話 天下統一への一歩 織田信長が従一位関白兼征夷大将軍へ任じられ、朝廷から錦の御旗の使用を許されたという知らせは、早馬や使者によって瞬く間に全国へ広まった。 これまで信長と敵対してきた大名にとって、この任官が持つ意味はあまりにも重かった。今後も織田家との戦を続ければ、単に信長の天下取りへ逆らうだけでは済まず、朝廷へ弓を引く朝敵とみなされるからである。 諸国の城では連日のように評定が開かれ、織田家へ恭順するのか、それとも徹底抗戦を続けるのか、重臣たちが激しい議論を交わしていた。家の誇りを守ろうとする者、領民の命を優先しようとする者、降伏を装って時節を待とうと考える者など、その思惑は一つではなかった。 信長と敵対していた有力大名の一人、越後の上杉景勝もまた、春日山城で難しい決断を迫られていた。 広間には越後と北陸の地図が広げられ、織田軍の進路を示す駒がいくつも置かれている。上杉家は柴田勝家をはじめとする織田方の軍勢と戦を続けていたが、ただでさえ戦況は厳しく、そこへ信長の関白兼征夷大将軍就任という知らせが届いたのである。 景勝を執政として支える直江兼続は、しばらく地図を見つめた後、覚悟を決めて口を開いた。「景勝様、もはや戦を続けることは得策ではございません。取り急ぎ停戦の使者を柴田勝家のもとへ送り、上杉家に朝廷へ逆らう意志がないことを明らかになさるべきでございます」 上杉景勝は、すぐには答えなかった。厳しい表情のまま腕を組み、地図の上に並ぶ織田方の駒を睨みつけている。「兼続、そなたは儂に、信長へ膝を屈せよと申すのか。上杉は幾度も織田と刃を交えてきた。その戦で命を落とした者たちに、どのように言い訳をすればよい」「信長に屈服するのではございません。朝廷の御命令に従うのでございます。ここで意地を通して戦を続ければ、上杉家は朝敵となり、領内の寺社や国人衆までもが動揺いたしましょう。そうなれば、敵は織田軍だけでは済みませぬ」「言葉を飾ったところで、世間から見れば降伏と同じであろう」「たとえ世間に何を言われようとも、御家と民が残れば、再び力を蓄えることができます。しかし、朝敵の汚名を